2021-06-11

錬金術師が不老不死の薬を作ろうとしたように

昨晩、ジン・トニックを共にした友人は、鋭い嗅覚を持っている。

ある種の豚が、地中に生えるトリュフを鼻で見つけてくるように、

その友人もまた、美味なものを嗅ぎ分けて見つけてくるのだ。

 

最近また、稀有なスープを見つけたとのことで、

我々は、朝6時から支度をして、その一杯を求めに行った。

今日は、こだわりのスープの話である。

彼に案内されたのは、虎ノ門のオークラにある「オーキッド」で、

ここでは、朝の6時半から至極のスープが飲めるらしい。

 

格式のあるホテルで、何を頼めばよいかわからないときは、

とりあえず、象徴的な料理(シグニチャー)を頼めば間違いはない。

オークラでは、フレンチ・トーストコンソメ・スープが、それにあたるため、

我々は、それらに珈琲を付けてオーダーした。

 

スープは2,000円、トーストは2,800円と、

朝7時に口にするものとしては、少々値が張る気もするが、

スヌーピーも「配られたトランプで勝負するっきゃないのさ」というように、

ここまで来て降りるわけにはいかない

 

しばらくすると、一杯の澄んだスープが運ばれてきた。

 

私は、運ばれてきた一欠片の具材もないスープを見て、

怒りだして皿を割る客がいないか心配になったが、

周りを見渡しても、そんな人物はひとりもいなかったため、黙って飲むことにした。

 

口に含んだ瞬間、雷に打たれ、自分の浅はかさを恥じることとなる。

これは、明らかにスープの類ではなく、肉料理である

まるで、凝縮された肉を噛みしめているような味がするのだ。

聞けば、1リットルの水に対して1キロの肉を使っており、

鶏肉と野菜でブイヨンを作り、そこに牛肉と野菜を合わせて、

計3日間、丁寧に丁寧に滋養のエキスを抽出しているそうだ。

 

かつて錬金術師が、物質に熱を加えて精を抽出し、

不老不死の薬(エリクサー)を作ろうとしたように。

 

つまり、この一杯のスープには、ステーキ1枚分くらいの肉が使われており、

お店側からすれば、利益度外視のサービスという感覚なのだろう。

 

コンソメ・スープに具が入らないのは、自然の摂理のごとく当然である。

なぜならば、コンソメ(consommé)という言葉の語源は、

完成という意味のラテン語であり、事実、山ほどの恵みが含まれているのだ。

完成品を前に「おまけはないのか?」と疑問を持った私が、ただ愚かなのだ。

同じ基準で作られたフレンチ・トーストも美味だったことは、もう記す必要もない。

興味を持たれたなら、実際に足を運んで体験していただきたい。

 

PS(追伸)

Kは、偏屈で気難しい人物である。

それゆえ友達が少ないため、申請してあげると喜ぶに違いない。

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コメント29件

  • ☆なが☆nagasan☆ says:

    Kさん、こんにちわ。

    さすがオークラさんですね。

    スープやフレンチトーストの味わい深さが
    Kさんの感性のフィルターを通して伝わってきました。
    感受性が豊かな人は何に対しても意味を即座に理解し自分の経験も乗せて表現できるのですね。
    Kさんの文字と視覚だけでヨダレが出てくる私は
    もしかしたら感化されやすい部類なのかもしれませんね。

    このスープとトーストを作るのに費やした時間よりも
    大切なコトが聴こえてきました。
    それは…
    「日本一のモーニングを作って、世界から訪れる賓客に、日本の職人魂を西洋料理でも発揮するぞ!」との先人達の声です。

    幕末から明治維新を経て工業化と貨幣価値を高めた後に、文明開化を成し遂げるには
    牛と小麦を良質に育て それらを活かす料理人達の歴史と努力の結晶が必要不可欠で
    それに支払う金額としたならば、どれほどのサービス品なのかがわかりました。

    食べてわかるコトと
    食べずにわかったコトを重ねながら
    スープとトーストをいただきに行って来ます。

    今の時代
    百聞は一見に過ぎず!という言葉は私には必要ない。
    Kさんのブログにて ほぼわかります。
    ただ
    私の思考が正解なのかを確認するために行ってきます。

    わかったふりも
    たまにはいいじゃ〜ないですか

    なが

  • 貴明 Takaaki says:

    Kさん、こんばんは。
    記事を拝見させていただきました。

    肉料理であると思われるほど濃縮されたスープは実在するのですね。料理の知識が浅い私は煮込む以外の工程が思いつきません。どのようにすれば紅茶のような透き通った色になるのでしょうか。

    見た目の彩りは少ないですが、食べた時の情報量は膨大でしょうね。画面越しで想像するしかできないのが惜しいです。

    今回もありがとうございます。
    これからも楽しみにしています。

  • MAKO says:

    肉料理のようなスープ。
    シズル感が溢れた文章に想像しただけでもよだれがたれてしまいました。

    『聞けば、1リットルの水に対して1キロの肉を使っており、

    鶏肉と野菜でブイヨンを作り、そこに牛肉と野菜を合わせて、

    計3日間』

    というように、感じたことに対して、ちゃんと何故そうなのか尋ねられるKさんの在り方、そして答えられるホテル側のおもてなしに感動いたします。

  • 美紀 says:

    水1リットルに対して1キロの肉を使い、3日間、丁寧に丁寧に滋養のエキスを抽出したスープ。
    高級なホテルでの価格は、広告費やそのブランド名などにお金をかけられているとばかり思っていましたが、一流の場所での値段は、それ相応の価値があるのですね。
    私は「できるだけ安くて良い物を」と思って安価な物を選んだり、また価値があるのかどうかもわからないものに「人気だから」などの理由をつけてお金をかけたりしていました。
    価値のあるものを見極める力をつけていきたいです。

  • 琴美✈︎kotomi says:

    お昼時に食欲をそそる素敵な記事をありがとうございます。

    まさしく「コンソメスープに具が入っていないじゃないか」と思った愚か者はこの私です。

    コンソメスープには玉ねぎやにんじん、ベーコンなどが具材として入っているのが当たり前だと思っていましたが、むしろ入っていないコンソメこそ、完成された至極の一品だったのですね。

    今度東京へ行く機会があれば、是非朝の6:30からコンソメスープを飲む為だけに早起きしたいです。

  • Yusei says:

    コンソメの語源は「完成」という意味なのですね。
    知りませんでした。

    そしてこんなにも高価なスープを初めて知りました。
    いつも器に具材の粉末とお湯を入れて完成するスープしか飲んだことがありません。
    一度飲んでみたいですね。

    ちなみにスヌーピーの名言を見て、似た言葉を思い出しました。
    ポケモンブラックホワイト2より、四天王ギーマの名言です↓

    「人生は与えられたカードでの真剣勝負
    配られたカードに文句をいうよりもどう使いこなすかが大事なのさ」

    与えられたメニューの中から、最善の一品をオーダーするのみですね。

  • Nobutoshi says:

    スープが肉料理。

    言葉ではなんとなくわかりますけどこれは体感しないとわからなそうですね。

    朝食でこの金額はちょっと高いですけどそれ相応、それ以上のものだったのでしょうね。

    コンソメの語源は完成。言葉そのものの印象からは想像できないものでした。

    コンソメを安っぽいものと思っていた自分を恥じる事にしますww

  • 雄貴 says:

    こだわりとステーキ一枚分が詰まったコンソメスープ、味わってみたくて仕方がありません。

    朝6時半に早起きをして、オークラまでわざわざ足を運んででも、絶対に一度は経験してみたいと思います。

  • Yuto Ueda says:

    今回はCodawariの朝食ですね。
     
    見ているだけで味が伝わってくるような錯覚に陥るほどに美しかったです。
     
    この繊細な文章を読みながらヨダレを垂らしていた自分に衝撃を覚えました。

  • さよみ says:

    私の中でのスープといったら野菜たっぷりで食感がある物をイメージしていました。
    具がないと何となく寂しいかなと思いました。
    けど時間をたっぷりかけ煮詰混んたスープなら具がなくても満足できそなイメージが湧きました。
    一度は試してみようと思います。

  • まれすけ says:

    コンソメスープの概念が覆るというよりも、そもそも本物のコンソメを知らなかっただけなんだと気づきました。
    コンソメは肉料理。料理をする人の時間と情熱により産み出される作品なんですね。
    それを味わっているかのように感じさせる描写のチカラ。
    料理をした人もこれを読めばとても喜ぶのではないでしょうか。
    東京へ行ったら、朝6時半にオークラへ出かけようと思います。

  • 淳弥 says:

    素敵な記事を読ませて頂きました。

    内容にもあったように朝食にしてはかなり値が張ると思いましたが、まさかスープ1杯にステーキ肉1枚分相当が溶け込まれているとは。
    そんな料理がこの世にあったのかと驚きを隠せません。
    ぜひ食べてみたくなりました!

    また、朝6時半から頂けるのも粋でいいですね。

    次の記事も楽しみにしております!

  • Mariko says:

    今回も、五感がビシビシと働くような記事をありがとうございます!朝食で¥2,000のスープは口にしたことがありませんが、Kさんの繊細な言葉一つ一つのおかげで、気分だけは味わえます。もちろん、実際に口にすると、想像を遥かに超えるものではあるでしょうが。

    私もアメリカの大学在学中に何故か調理実習があり、コンソメスープを一から作ったことがあるのですが、お肉をそこまで大量に使うことはもちろんなく、出来上がったスープの色も全く違いました。お写真のスープの色の濃さに驚きです!

    Kさんのcodawariは、家の中だけでなく、外の世界にも広がっているのですね。Kさんの生活は全てオーダーメイドですね!素敵すぎます!

  • 剛熙 says:

    Kさん、こんばんは。

    コンソメスープの表現を聞いているだけで、夕飯後なのにお腹、いや…舌が疼きました!

    どれだけ深い味わいなのか…ただただ気になります

    コンソメの具は「おまけ」だったんですね…^^;

    真のコンソメに出会う為、このホテルにぜひ足を運びたいなとそう思わせていただきました。

    ありがとうございました!

  • 秀直 says:

    アジア諸国へ旅する途中に食すカレーのほとんどは具のないスープのようなサラサラしたもので、日本の家庭料理のカレーに慣れている私にはゴロゴロとジャガイモと人参と角切りの肉が入っていないカレーは本物ではないと勝手に思っていたものです。
    このコンソメスープの丁寧に仕込まれた本物を知らないままに口にする恥ずかしさを晒す前に無知を教えてくださり感謝するとともに、こだわりぬいた仕込みゆえに完成された姿のスープがここぞとばかりに存在感を発する場所にふらりと足を運んで何食わぬ顔で舌鼓を打ってにやつく自分を想像しておりました。
    完成にたどり着くまでのスープの物語をいったいどれほどの人が認識してるのでしょう。
    コース料理の始まる最初のスープにこそ一番の自慢が詰め込まれてるのかもしれませんね。

    • 淳弥 says:

      アジア諸国だけでもカレーには様々な作られ方があるとは初めて知りました!
      日本だけでなく、様々な国の食文化に触れる事は素晴らしい事ですね!
      更に新しい事を知れて凄く得した気分です♪ありがとうございます!

  • tomoki says:

    おはようございます。

    コンソメスープに具がない…
    私が生きてきた中で
    初めて聞きました。

    そのスープを作るのに1ℓに対して肉が1kgは
    本当に驚きですね。
    そして3日かけてつくる。
    2000円と聞くと、高いと思ってしまいますが
    それほど手間暇かけられて
    食材にもこだわったスープだと聞くと
    安いと思わされますね。

    こだわりの記事、今日もありがとうございました!

  • Toko says:

    コンソメスープ一つから、こんなにも話を広げられるKさんの感性が欲しいなと、素直にこの記事を読んで思いました。

    肉そのまんまのコンソメスープ、Kさんの表現があまりにも秀逸で、飲んでいる自分を勝手に想像しては、知らぬ間に涎が垂れていないかソワソワしていました。

    一見シンプルなコンソメスープ。Kさんの感情を爆発させたコンソメスープ。
    一度でもいいから食してみたいです!

  • shingo says:

    まさか具がないコンソメスープに
    これだけの支払いをするのか?! 
      

    具が無いとなんだか損した気分です。
    しかし、全文を読んで、我に返り
    表面上でしか理解していない自分に
    少し恥ずかしくなりました。
     

    物事の本質はシンプルに表現されている
    表面上のモノよりも、もっともっと深い
    ところにあるのだなぁと、改めて
    認識しました。
     

    頭では分かっているものの
    普段からこういった環境に
    触れていないと結局は分かった気に
    なっていただけだったのですね。
     

    これからも、引き続き体験することを
    大切にしていきます。
     

    素敵な気づきをありがとうございます。
    そして、オークラのスープ是非体験しに
    行きます。

  • 佐藤洋美 says:

    Kさん
    素敵な記事をありがとうございます!
    Kさんの記事を読むと私も高貴な世界へ入ったような気分になります。
    具が何も入っていないスープにはとても手間暇かけてあるのですね!なのに肉のようなスープをゆっくり味わってみたいです!
    フレンチトーストは簡単に作ろうと思えば作れてそこそこ美味しいですが、以前テレビで見たレストランでは、食パンを液につけて冷蔵庫で何時間か寝かすことにより、表面がカリっと中は柔らかくなるということ。火加減、時間など、何事もこだわれば自分の出会ったことのない素晴らしいものが生まれるのですね。

  • なかむぅら(中村) says:

    いつも素敵な記事をありがとうございます。

    私はオークラで結婚式を挙げましたので、記念日には妻と特別な時間を過ごす時に利用することもあります。

    しかしながら、朝食でこのクオリティまでは手が届いておりませんでした。
    価格が高いだけで、何故、この値段なのか?までは、意識したことがありませんでした。
    おそらく、ここで出される品であれば、たとえただの水道水でさえ、特別な水なのだと、プラシーボ効果のように信じきってしまうと思います。

    深掘りさえすれば、高価格であっても、実は利益度外視で提供されているものだとしても、その本質にすら辿り着けないのかもしれません。

    まさに、ギリシャ彫刻のように洗練された美しい逸品ですね。
    是非、その価値を理解した上で、食してみたいと思います。

    星の王子様で有名な、サン=テグジュペリの言葉を思い出します。
    「完璧とは、付け加えるべきものがなくなった時ではなく、取り去るべきものがなくなった時のこと」

    本日も、素敵な気付きをありがとうございます。

  • 若菜 says:

    いつも素敵な記事をありがとうございます。
    今回も短編エッセイを読んでいるようでした。

    オークラの象徴的な料理がフレンチ・トーストとコンソメ・スープとは。
    確実に受け継がれている静かな伝統を感じます。

    お写真を見ただけではコンソメスープだなんて一体どれだけの人が思うでしょう。
    黄金色に輝く紅茶のようにしか見えません。

    作られる過程も詳細に知ることができました。
    栄養の塊なのですね。
    まさに薬。とても納得できました。

    次都会に出る際、オークラを利用したいと思います^^

    次回も楽しみにしています。
    ありがとうございました。

  • 真里 says:

    コンソメスープを飲むためだけに6時過ぎに出かけるKさん。好奇心の塊ですね。
    お店のお名前を聞いて硬直してしまいました。けして、決してKさんを疑う訳ではなく、”あの”オークラなのか確かめる為に少々調べさせていただきましたが、全く同じフレンチ・トーストのお写真を発見しました!驚き価格も納得せざるを得ません。
    そしてこの紅茶のように透き通った美しいお色の飲み物がコンソメスープ!?文章から漂う香り、味が、含んでもいないにも関わらず脳髄を打ち抜くような感覚を覚えます。コンソメの語源も知ることが出来て拝見するたびにどんどん知的好奇心と感動が湧き上がります!明日の記事を心待ちにしています!

  • あめ says:

    澄んだ琥珀色のスープのなかにどれほどのエッセンスがはいっているのだろう。
     
    全てを内包した慎ましやかな姿に気品すら感じます。
     
    まさしく目覚めの一杯の逸品です。

  • 肥田全弘 says:

    シンプルの中に深い味わいのあるスープですね。体験してみたいです。

    今日カウンターを磨いて、カウンターの上の物を全て無くし、シンプルにしました。

    香り高いボンベイサファイアも、日常の楽しみに加えてみようと思います。

  • みゆき says:

    ステーキ1枚分のお肉が凝縮されたスープ
    想像しただけで、味は間違いないのはよくわかます。
    そんなスープを出すお店なら、フレンチトーストへのこだわりもあり
    何を食べても間違いないですよね。

    素敵な経験を教えて頂き、ありがとうございます。

    是非、足を運んでみたいと思います!

  • 貴子 says:

    形あるものにいかに囚われていたかに気付かされる内容でした。
    見た目で具沢山の物にはさぞ栄養があると脳にインプットされているため、その概念が覆されますね。
    スープの具を残す娘にとっては朗報なので、今は伝えるのはやめておきます。
    そもそも私の料理は未完成なので、全て食べてこその完成ですから。

  • 摩衣 says:

    具材の入っていないコンソメスープを初めて見たので、

    K氏は珈琲を頼んだとおっしゃっているが、
    これは紅茶では?

    と思った自分が最も愚かでした。

    こんなにも「わかる人にしかわからない」世界が
    一応誰にでも門戸だけは開かれていることを、
    知っている人から聞かなければ、庶民は一生知る由もないことで、

    周りを見渡してみれば、
    全てのものについて、それが当てはまるなぁ。
    (そしてこのブログから、既にいくつの未知を既知にしてもらっただろう)

    と改めて振り返っております。

  • りゅうき says:

    今日も素敵な記事をありがとうございます。

    初めてのお店に行く時、
    僕もそのお店で象徴的な料理を頼むときがあります。

    ただ、毎回そうではないです。
    その理由として、値段が掛かるからです。

    でもやはり経験として、
    “躊躇してはいけない”

    これを肝に銘じて、
    これからも気になったお店には足を運び、
    値段が張るものでも楽しみたいと思います。

    今日も素敵な記事をありがとうございます!
    次も楽しみにしています。

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