2021-06-09

船は船頭に任せよ。間違いないから。

私たちは、すべてのレストランを訪れることはできない。

なぜなら、日本には67万件にも及ぶレストランが存在するため、

食べ盛りのワニのように、1日5件食べ歩き続けても、400年近くかかるからだ。

 

海外にまで視野を広げれば(仮に一定の評価を得ている店だけに絞っても)

私たちが訪れることができるのは、世界の氷山の一角であるため、

「美味しい」と思えるお店に入れるのは、誇張抜きに奇跡なのだ。

 

特別な日に、少なくないお金使うなら、なお外すわけにはいかない。

つまり、夕方に顔を剃り、下ろしたてのシャツに袖を通し、

カツンという心地の良い音の靴を履いて出かけたのに、

何にでも金箔を散りばめるような店であれば、興醒めである。

 

私には、店を外さないとっておきの秘訣がある。

それは、感銘を受けたお店の大将に紹介をしてもらい数珠繋ぎをすることだ。

料理人としての面子にかけて、間違いは起こらないし、

多くの場合、付き合いのある店を紹介されるため、良くしてもらえることが多いのだ。

 

ちょうど先日も、私が神戸で最も敬愛する割烹の大将から、

ある中華料理屋をご紹介いただいたので、足を運んでみた。

ここは、ガストロノミーの精神を宿す中華料理屋である。

卵型の器に入った料理は、餃子」で、ニラのかき氷が添えられている。

牡蠣のアヒージョに、バケットを合わせるように、

餃子の具材に、揚げた皮を砕いて食べるスタイルだ。

 

優れた音楽家が、観た風景を元に、美しいメロディを奏でるように、

一流の美食家は、頭の中のイメージを、自由自在に味で表現できるのだろう。

確かに、紛れもなく餃子である。


フォアグラを紹興酒と柚子で調理し、最中(もなか)に仕立た一品。

クローヴと花を敷き詰めたジュエリー・ボックスで提供する演出も粋だ。

どういう教育を受けたら、こんな発想になるのだろう。親の顔が見てみたい

 

私がイタリア人であれば、ここで生演奏をお願いして、

ダイヤモンドのリングか何かを渡すのだろう。

これは、メレンゲを添えたバナナのキャラメリゼではない。海老チリである。

ビーツのソースに、タピオカのフリットを添えてだ。

 

終始このような調子で、アート作品を鑑賞するように3時間愉しませていただいた。

もちろん、空間デザインや、接客も紛れもなく一流である。

船は船頭に任せよ。間違いないから。


関連記事

コメント17件

  • さよみ より:

    10代20代の頃は食べ盛りでもあり、お腹いっぱい食べれるだけで満足していました。食材や原料なども出された物を食べて何も考えてませんでしたが、年齢と共に味覚も変わり舌も肥えてきてからは、やたらに食べるのではなく、拘った食材を少しずつ食べで味わうという事を知ったので記事を読んで楽しませて頂きました。

  • まれすけ より:

    これは、次に何が出てくるか、ワクワクするお店ですね。
    アートでもあるし、エンターテインメントでもあるんですね。
    客の想像と期待を超えてくる創造力と独創性。すごいお店が神戸にあったとは。
    30年以上神戸にいるのに、知りませんでした・・・。
    こういうお店を発見されたり紹介してもらえたりするのも、普段から一流に触れるということを意識していらっしゃるからなんですね。
    おそらくお店でも、素直に驚きと感動をお店の人にお伝えしているんだと思いますし、だからこそ、数珠繋ぎが生まれるのですね。
    とてもいいお話しをありがとうございます。

  • tomoki より:

    素敵な記事ありがとうございます!

    Kさんのブログを読んでいると
    どこか別の世界に引き込まれた
    不思議な感覚になります。

    一つ一つこだわるとこんなにも
    違うんだなと思いました。

    何十万という数の中から、美味しいと
    思えるお店に出会えるのは奇跡と
    お聞きし、そのようなことを
    考えたことがなかったので
    本日もたくさんの刺激をもらいました。

  • 秀直 より:

    料理人がその道のプロとして精進していく過程の中で、いつどのタイミングで専門料理の分野に入り込み極めるまでの長い道のりに一歩踏み出すのか。
    私にはその分野に精通するまでの経験や知識があるわけではなく軽はずみに料理人とはを語ることはできませんが、このような一般的な常識の中の形を覆すも人の心を動かすような料理を出すまでの、その経験値とお人柄、視野の角度に非常に興味がわきます。
    エビチリとは、餃子とはこういうものだという決まりきった概念を打ち破る想像力と創造。
    発明や感動を小さな皿の上で表現し、味で唸らせ、視覚で驚愕させるような一品に出会える価値あるひとときの味わいを教えてくださるこのcodawariにまた訪れたい。

  • Toko より:

    「船は船頭に任せよ。間違いないから」
    というタイトルからは想像もつかないような美しいアート作品が並んでいて、どんな物語が待っているのかとソワソワしながら最後まで一気に読み進めてしまいました。

    確かにどこかしこも料理店にあふれていて、本当に美味しいと思えるお店に出会えるのは奇跡。
    そのようなお店に出会うためにKさんが打った策に、そんな手があったのかと驚かされました。

    その道の一流の方に任せていれば、一流の場所にたどり着く。
    今行っている活動でいえば、その道で成功されている方を信じてついていけば、きっといい未来が待っている。そんな風にも感じました。

    Kさん、素敵な記事をありがとうございました!

  • MINORU SHIBATA より:

    こんにちは。
    いつも楽しく、毎回驚きながら拝見させて頂いております。

    「美味しい」と思えるお店に出逢えるのは本当に奇跡なのですね。
    67万件ものお店が存在することに驚き、すべて回るには400年以上かかると見て、さらに驚きました。

    まさに船は船頭に任せ、レストランは味のプロに聞け。とその道の優れた方に任せる、というシンプルな結論に気づかせて頂いて、ありがとうございました。

  • shingo より:

    これはもう、まさしくアートですね。

    私が行きつけのドでかい中華鍋を振るう
    大衆向けの中華屋と、こんなにも
    差があるのかと驚愕です・・・。

    数珠繋ぎで、一流から一流へと繋がる世界
    とても美しいです。

    一流の連鎖につながるためには、
    初めの一歩はその世界に飛び込んで、
    一流の人や一流のモノに触れるという経験が
    必要なのだなと、改めて感じました。

    とても深い学び、ありがとうございました。

  • 佐藤洋美 より:

    Kさん
    いつも素敵な記事をありがとうございます
    中華料理の概念を完全に壊されました!
    これ餃子???エビチリ???トリュフの最中???私の頭は?マークだらけ。
    お料理は(も)見た目が大事ですね!
    まず目で楽しむ、そしてゆっくり味わう。
    富裕層だけが知ってる世界に私も入ってみたいです。

  • 秀道 より:

    本日も素敵な記事をありがとうございます!

    一流の方が、一流のお店を紹介していく連鎖は本当に凄いです。確かに世界中のお店は生きているうちには全て回りきれないですよね。

    氷山の一角を当たり前の様に見つけて楽しまれているご様子に、一流の在り方を感じました。

    そして料理名と品とのギャップがあり過ぎて、写真と文章とのアンマッチを毎回愉しみながら拝読させていただきました。
    ありがとうございました。

  • あめ より:

    私がいつも餃子や海老チリと思っていたあれらは何なんだろうとお写真を拝見しながらまだ混乱しています。
     
    餃子はこういうもの、海老チリはこういうものという固定観念を打ち壊すお料理の数々。
     
    まるで舞台を見ているかのような興奮を味わいました。

  • 若菜 より:

    いつも素敵な記事をありがとうございます。

    日本だけでも全ての飲食店を周るのに400年以上、世界中を含めると一体どのくらいかかるのでしょう。。
    果てしない時間を想像することは難しいですが、お店からの数珠繋ぎのご紹介であれば名店に近づくことは最短距離で辿り着けそうです。

    まさか中華料理とは思えない、エンターテイメント性のあるお料理の数々にわくわくしました。
    創意工夫の四文字がぴったりですね。
    おもてなしも一流とのこと、一度訪れてみたいものです^^

    次回も楽しみにしています。
    ありがとうございました。

  • なかむぅら(中村) より:

    美味しいお店との奇跡の出会い、素敵ですね。

    自分が長年住んでいる地元にも、きっと知らない素敵な世界が広がっているのだろうなと、改めて感じました。

    一流の空間での豊かな時間を過ごし、自分の感性を磨いていけるよう、自分だけの色とりどりの数珠を繋いでいきたいと思います。

    本日も素敵なシェアをありがとうございます。

  • 澤見優子 より:

    間違いのない数珠つなぎ・・・
    誰とも被らない、何色にも例えられない色の数珠を
    私も作っていきたい。そう思いました。

    いつも素敵な文章で心がワクワクします!!

  • 淳弥 より:

    御料理の写真も多く、いつも楽しませて頂いております。
    お店選びの際に大将に紹介してもらう方法は初めて知り、実践してみたいと思いました。
    御料理を細部まで楽しむ審美眼を身に付ける為にも一流の経験を沢山したいです。
    次回も楽しみにしております。

  • 安藤達也 より:

    素敵な記事ありがとうございます。
    昔は、おなかいっぱいに食べたい、これで十分に満足していましたが、今は、ものに溢れ、情報量も増え、価値観も徐々に変化してきています。
    ただ、おなかを満たすだけのお店は続かない。なぜならば、風の時代になってから、心の豊かさを求めているからです。
    これからは、エンターテイメントを追求していかなければなりません。
    このお店は、まさに象徴です。
    このような素敵なお店に早くチップが導入されるといいと思いました。
    ありがとうございました。
    次回も、楽しみにしております。

  • いくみ より:

    いつも驚きが止まらないような記事をありがとうございます。

    「大きなフライパンで大量に作る料理」というイメージの中華が、
    フレンチのコース料理のような姿に大変身していて衝撃を受けました。

    枠にはまらない、ユニークな発想と繊細な技術の
    新たなジャンルの中華料理にとても興味が湧きました。

    また素敵なcodawariを楽しみにしています。

  • りゅうき より:

    今日も素敵な記事をありがとうございます!
    “全てのお店で食事をすることは不可能、だからこそ美味しいと思えたお店に出会えるのは奇跡”
    この言葉とても響きました。
    そして、お店選びを成功させる方法まで教えていただきありがとうございます。
    大将やお店の人と話すのは少し恥ずかしいという気持ちがありますが、それも楽しめることで料理も一層美味しくなる。
    そして次もまた美味しいお店に行ける。
    僕もこれからお店を選ぶときは数珠繋ぎをしていきたいと思います。
    次も楽しみにしています!

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です